アブストラクト
本稿第11章では『マルテの手記』における神について考察する。 『手記』の神とは排除された他者の代用であり、生の目的を示し、意味を与える為に呼び出されたものである。 最終第12章においては『手記』を締め括る「放蕩息子」の寓話を、愛のテーマに焦点を絞って読む。 この蕩児は「愛の女」の系譜を引くものであり、他者の愛を拒絶する為に家出し、その拒絶を貫きつつ、 「神への愛の仕事」に就く為に帰宅する。それは「詩人」の寓話であり、マルテの仕事の成果たる「作品」と見なすこともできる。
(Libra vol.2, pp.67-86, 2000)