アブストラクト
イギリスでは1920年代に演劇検閲に対する関心が高まり,メディアによる検閲批判が目立つようになった. その批判の内容を検討すると,検閲の寛容な面を批判する言説と逆に検閲の厳格な面を批判する言説の両方が存在したことがわかる. 演劇検閲は両極端の見解が交錯する中に存在していたわけであるが,その背後に,高級な演劇と低級な演劇を区分する当時の文化的状況 (具体的に言えば商業演劇と小劇場への二極分化)を指摘することができる.そのような状況の中で検閲官は, 両極端の見解の中間をとった民主的な検閲を行うと公言したが,実際にはそう公言することによって, 検閲は中産階級の一般観客を演劇の影響力から巧妙に保護しようとしたのではないだろうか.
(Libra vol.3, pp.13-32, 2001)